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吊り橋の上の恋

 パティシエなにゃんこ ~初恋はいちご味~ 通常版

 恋愛、兄妹愛、親子愛を交えながら、けれどその愛情の確かさは、ひよこ館という場こそが生み出すもののように思えます。彼ら彼女らの気持ちは、お客さんと、ホールメンバーと、働くという事と、ひよこ館を巡る様々にあたたかく見守られながら、少しずつ少しずつ、全く無理のないかたちで育まれていく。あちらへこちらへと注がれる全てのまなざしが優しくて、ひどく安心して見ていられます。出来上がったばかりのケーキを前にして、「見てるだけじゃ可哀相だろ」なんてセリフが、なんでもない事のようにスッと出てくるんです。都合の良い展開はそれとして、あらゆる場面の真摯さや誠実さにおいて見るべき話だと思います。

 さて、クリスマスの準備に入ったので、みちるさんシナリオも中盤にさしかかったところですが、いつも笑顔のひよこ館スタッフの中で、彼女はなかなか笑ってくれない人でした。翔一くんの奮闘は彼女と仲良くなる事と、厨房に立つ事を目標になされますが、最近は大分――というか、かなり、翔一くんの望み以上に報われてきたようです(つまり恋だ)。ケーキ作らして、って言ったら「ダメなんて言ってないですよ」だってさ。えぇ~。みちるさん、クールな人のようでいて、実はそう見えるだけの不器用さんだったようです。そうと分かれば無茶苦茶かわいいのがお約束。まぁ、それだけならかなり始めのうちからバレバレでしたが、要は翔一くんとの距離の問題です。大事件など起こりゃしませんが、小さな事件の積み重ねで、毎日毎日、全く自然に近付いていく様子が大変微笑ましく、時々は微笑みを通り越して笑いながら見てました。みちるさんもそうですが、翔一くんがまた可愛いんだ。静かに跳ね除けられては体当たり、穏やかに躱されては体当たりです。文字通りぶつかっちゃったりしてさ。ラブコメ

 「吊り橋の上の恋」というヤツが思い出されるのだけれど、ひとりで仕事に没頭していたり深刻そうにしたりしているみちるさんを、翔一くんがしょっちゅう驚かせているからみたい。言葉通り、不意打ちで声をかけてしまう事などは日常茶飯事で、二人には更に、ドッキリするような偶然の出来事がぽつぽつと起こります。着替え中のみちるさんをうっかり発見しちゃったり。ドッキリ。しかも3回ですよ。下着の色だって3回とも違うし!
 不器用さんでマジメなみちるさんですが、不器用だからこそ、突然の事や飾らない直球の言動には対処しきれなくて、店中に響くような大声で「うわああああん」って泣いちゃったり、しどろもどろにしか答えれなかったり、そこへ翔一くんが必死こいて助けに向かったり、大変な事があれば大丈夫ですよって、ひとしきりからかった後で冗談ですよって笑って、謝ったり許したり、助けたり助けられたり。本人たちはそれなりに懸命なのだけど、じゃれ合ってるようにしか見えません。吊り橋も一度だけならドッキリですが、吊り橋の次にまた吊り橋、吊り橋、吊り橋と一緒に渡ってゆけるなら、あたふたしていた相手の手はいつの間にか彼を、彼女を抱きしめているし、ドッキリはドキドキに変わるってもんです。ひとりとひとりだった彼と彼女は、そうしてふたりになっていきます。ラブコメのうちに行われる距離の縮りが、大慌てしながら、でもとても丁寧に描かれていて、可愛らしい。翔一くんが純朴な人である事は前にやったかなでシナリオで知っていましたが、唯一お姉さんであるみちるさんもまた非常に純情な人で、この二人であるからこそ、なんとも「らしい」シナリオ展開に思えます。みちるさんには何か深刻な事があるらしいのだけれど、大丈夫、ちょっとずつ一緒に頑張っていけばいい。それが似合う。

 みちるさんがたまに聞かせてくれる笑い声に、翔一くんが「おお…」って反応する、私も一緒になって「やった」って思う、えらく素朴なそんなしあわせが、このゲームの持ち味だと思います。
 一気に進めるのが非常に勿体ないです。私もちょっとづつ先へゆこうと思います。(2005/05/14)