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さよならジャック・オ・ランタン

蒼穹のファフナー そうかず小話

 おばけの仮装だtrick or treatだと世界がどんちゃん騒ぎの間中、部屋にこもって『蒼穹のファフナー』のドラマCDを聴いていました。いや、いいんです、ハロウィンを練り歩くのは子供たちで、大人の仕事は彼ら彼女らを楽しくもてなすために、確実におうちにいることのはずなんです。
 連休に備えて買い置きしたお菓子の類は、すべて私の腹に収まりました。おかしいなあ。お菓子だけに。あっ、そんな目で見ないで。

 閑話休題

 平時のファフナーパイロットのことをめいっぱい子供扱いしたいと考える島の大人は、自分たちがお菓子の準備を任務とするように、彼ら彼女らにも仮装で歩き回ることを義務づけてしまうかもしれない。18、19でもアルヴィスの大人用制服に袖を通すまではまだ子供でいいんだよ。命令だ、お前たち子供みたいな顔をしてなさい、というわけだ。

 「先生、イベントごとが好きなだけだって素直に言ったらどうですか」
 「こら、ばらすんじゃありません」
 「先生、《楽園》のハロウィン限定メニューが食べたいです」
 「…先生も食べたいです。一騎くんは歩かなくてよし!」

 適当か。ヤレヤレという顔で大人に付き合う子供の方が、よほど大人らしくあるだろう。実際、子供の振舞いが許される季節の終わりをすぐそこに予感している彼ら彼女ら、自分たちも、子供みたいなことができる大人に、また子供たちに子供の顔をさせてあげられるような、そんな大人になりたいものだと微笑むだろう。

 一騎さんがもっぱら誰かを食べさせる人であり、食べる姿のあまり見られないことに幾許かの寂しさを覚えるカズキストだが、彼の身動きの取れない代わりに、悪魔の角と羽を生やして男前度を上げた皆城くんが、両腕いっぱいのお菓子とともにやって来るから安心だ。アルヴィスの大人たちは彼にこそ、子供時代のやんちゃやときめきをたらふく食わせたいに違いなく、「一騎くんの分も持って行ってくれ」と都合よく押し付けられた物もあって、窮屈そうに《楽園》のドアを開く皆城くんからは、らしくなく甘い、しあわせのにおいがする。
 「散々な目にあったぞ」
 口ばっかりの不機嫌なんかお見通しだとやさしく笑うマスターのおかげで、ますます眉間に皺の寄る悪魔だ。見よう見真似でくり抜いただろう、ちょっと不恰好なかぼちゃのジャックも、「お前は相変わらず悪魔のくせに人が好いな」とカウンターの隅で笑っている。

 魂を奪いにきた悪魔をだまして、きっちり寿命まで生き延び、きっちり死んだジャックはしかし、生前の悪行のため天国に入れず、自ら望んだ契約のため地獄へ落ちることすらできず、天国と地獄の狭間で永遠に彷徨い続ける魂となってしまったそうだ。帰る場所を失い、暗い道の上で凍えるジャックを哀れみ、灯りをくれたのは他ならぬ悪魔だった。

 持ち前の律儀さでハロウィン参加前にハロウィン知識を身につけていた皆城くんと、それを聞いてほんの少し顔を曇らせる一騎さんだ。
 「せめて地獄に入れてやれよ」
 「僕に言うな」
 「今日は悪魔だろ?帰る場所もないなんて」
 そんなの寂しいだろ、とつぶやく帰り道の途中、とうに日は落ち、冷たい秋の夜風を浴びて、浮かばれぬ魂でなくともあたたかい灯火のひとつも欲しいところ。
 目的地を失った道の上のジャックを思う。それは荒野に立ち尽くすこととどう違うのか。天国と地獄の狭間は、人間とフェストゥムの地平、存在と無のせめぎあう混沌に似て、ともすれば心を消したくなるような果てしない孤独だろうか。
 「確かに、ぞっとしないな」
 居場所のあることや、帰りを待つ人の存在が心を照らすということを、知っているふたりだから今、同じ道を歩いている。帰る場所のある道の途中を。
 ランタンはいらない。
 ジャックの灯りは悪霊を退けると言われているが、一騎さんならいい霊も悪い霊もまずは招き入れて話を聞くところからはじめたがることだろう。腹を空かせているようなら、誰彼の区別なくうまい食事を。満たされた客がそれでも悪さを働くなら、そのときこそ悪魔の出番である。ジャックを地獄にすら受け入れなかったように、締め出すだけの話である。
 などという文脈を一騎さんが知るはずもないのに、
 「…まあ、機会くらいなら与えてやってもいいだろう」
 真面目くさってそれだけ言うから、なんだそれ、と笑い出す一騎さんだ。

 ハッピーハロウィン。このあと同じ部屋にでも帰れば少しはボーイズのラブっぽくなるのだろうが、私が書いたのではモエるものもモエなくなりましょうから、あとはみなさんのご想像にお任せします。

 前回の小話といい、私はどうも、実は人一倍ロマンチストな皆城くんと、そんな皆城くんの感傷に知らず火をつける天然の一騎さん、という組み合わせで、ふたり、ただ歩いているという想像を気に入っているようです。